九段坂三番町

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山手線を抜き去る風景

2008/06/23 月 22:36 |

 普段の、電車を利用する朝夕の場面を思い出してみる。

 改札をくぐり、プラットホームに立って電光掲示板の時刻を見る。携帯電話か腕時計を見返して時刻表を確かめる。先の電車が去ったばかりで、次が来るまで時間が有り余っているなら、軽くため息をついて、かばんに忍ばせた本を手にする。まもなくやってくることがわかると、混雑に対応すべく心の準備をする。

 目を線路の遠く先にやると、こちらに向かってくる車両の姿、あるいはヘッドライトの灯りが見えた。車両がホームにすごい速度で滑り込む。徐々にスピードをゆるめ、停止するとドアが開いて、他人だらけの空間に身をねじ込み、読書をあきらめ、めまぐるしく変化する車窓を無心で眺める。

 乗り込んだ路線が特急や快速のようにビュンビュン疾走する電車で、その隣を各駅停車が走っていたら、私は各駅停車の車内に目を奪われる。

 走っている電車を外から眺める機会は、さほど多くないと思う。都市部であれば、発達した鉄道網の恩恵で併走区間はそれなりにある。だから併走というものがどこまで希少なものか判断しづらい。でも、実際その場面に巡りあえると、私は少し胸踊る。

 快速電車はゆっくりと各駅停車を追い抜いていく。そのとき、ずっと相手の車内に目をやる。子供の頃なら、きっと向こうに手を振っていた。電車に揺られるしかない人々の姿は、受け身でしかない一方で、皆が皆それぞれに過ごしてる。

 当たり前の風景だが、この瞬間は長く続かない。わずかな時間だが、外から走る電車を眺めると、ずいぶんと客観的な視点でその風景を堪能できる。これは箱庭を愛でる気分に似てるのかもしれない。

 そんなわけで、埼京線が山手線を抜き去る瞬間が大好きだ。
author : hiziri_mb | comments (0) | trackbacks (0)